あらゆる組織に“対話”の可能性を広げる仕組みを。
クウゼンとイノベーションが共有した未来像とは
法人向けIT製品の比較・資料請求 サイト「ITトレンド」の運営事業などを展開する
株式会社イノベーションは2023年5月、投資顧問会社であるハヤテインベストメント株式会社と共同設立した
CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)「INNOVATION HAYATE V Capital」を通じて、
対話デザインプラットフォーム「クウゼン(KUZEN)」を提供する株式会社クウゼンに出資しました。
今回の資本提携では事業に臨む姿勢をはじめ、両社に通じるものが決め手になったといいます。
提携の狙いや意気込み、その先で共有する未来像について、両社のトップに聞きました。
MEMBER
今回の出席者
太田 匠吾氏
株式会社クウゼン 代表取締役CEO
以下「太田」
東京大学大学院農学生命工学研究科修了。JPモルガン証券投資銀行本部にてM&Aアドバイザリー業務、株式・債券関連の資金調達業務に従事後、産業革新機構では大企業のプライベートエクイティ投資やスタートアップ企業へのVC投資を経験する。2016年、株式会社コンシェルジュを創業して代表取締役CEOに就任。翌年、大学院時代の友人を開発責任者とする高機能チャットボット「Concierge U」の提供を開始する。2019年に「クウゼン(KUZEN)」と改称した同サービスの浸透を踏まえ、2023年8月に株式会社コンシェルジュから現社名へ変更。さらなる機能拡充と事業拡大に取り組んでいる。
富田 直人
株式会社イノベーション 代表取締役社長
以下「富田」
横浜国立大学工学部電気工学科を卒業後、リクルートで営業・マーケティング・広告サイトの立ち上げやマネジメントなどを担当。2000年に株式会社イノベーションを創業してB to Bマーケティング支援事業を展開。2016年に東証マザーズ(現グロース)に上場する。2022年4月、同社およびハヤテインベストメント株式会社の共同でCVCファンド「INNOVATION HAYATE V Capital」を設立し、起業時に掲げたビジョン「『働く』を変える」の実現に向けた関連分野のスタートアップ支援に注力している。
親しみやすい“対話型”のマーケティングを支える
─ まず、このたび資金調達した太田さんから、貴社の対話デザインプラットフォーム
「クウゼン(KUZEN)」の事業についてご紹介ください。
太田:当社のプロダクトであるクウゼンは、企業が顧客や従業員との対話型コミュニケーションに用いる、チャットボットの運用を支援するWebサービスです。400社超の導入実績も踏まえ、この8月には社名もプロダクト名と同じ「株式会社クウゼン」に変更しました。
現在の主力事業は、BtoC企業がマーケティング目的で活用するLINEの運用支援です。より具体的に言うと、LINEの機能拡張ツールとしての役割を果たすクウゼンの開発販売、ならびにクウゼンを活用したマーケティング施策の立案や運用代行に力を入れています。
見込み客に製品・サービスを認知させて温度感を高めてもらい、購入客との関係を維持発展させ、さらに離脱者の呼び戻しも図るという、今日のマーケティング活動の領域(ファネル)は広範にわたり、既存のメール配信ツールなどでは一部領域に特化した製品もみられます。一方で、弊社のクウゼンはこの長いファネルを全てカバーしています。
これは「友達登録してくれた相手とは、その後ずっとピンポイントで、対話型のリアルタイムなコミュニケーションが取れる」というLINEの強みを最大限生かすためで、私たちはクウゼンのユーザー企業がマーケティング施策にあたって処理しなければならない複雑な作業を、背後から技術的にお手伝いしています。
その具体例としては、「D2C化粧品ブランドの見込み客への返信のうち、一部を自動化する設計」「人材会社が市場ニーズを踏まえ、優先度の高い求職者から順に連絡を取るための属性設定」などが挙げられます。
─ 会社の成り立ちや、太田さんご自身についても伺えますか。
太田:私はもともと、学生時代にバイオ系の研究をしていました。ただ次第に「もっと社会に与えるインパクトが感じられるビジネスの世界に身を置きたい」と考えるようになり、金融業界への就職を選びました。
最初の勤務先である投資銀行では3年半ほどM&A支援や資金調達に携わり、その後「もっと事業会社に近いところで働きたい」と政府系ファンドに移りました。ここでは5年ほどの間に世界的なテック企業との交渉を経験するなど充実していたものの、出資側に立つ自身がサラリーマン・ノーリスクであり、出資を受ける起業家の心情を掴みきれないという葛藤を強く感じました。そこで最終的に「実際に自分でやってみよう」と、起業の道を選びました。
2015年、スタートアップなどでITサービスを開発していた共同創業者(CTOの白倉弘太氏)を誘って設立した会社が、当社の前身です。私は一時期、親が経営する弁理士事務所を手伝っていたこともあり、創業当初は知財関連の調査業務のクラウドソーシングサービスを計画していました。ただ半年ほど取り組んでみると人海戦術の要素が大きいと分かり、ITの力でスケールする事業を新たに模索するようになりました。
ちょうどその頃、対話型コミュニケーションツールとして国内に定着したLINEが、チャットボットの開発環境を外部の開発者にも公開しました。これが私たちの、今に至る事業の出発点になっています。
─ それ以来、対話型のコミュニケーションを支援するサービスを展開しているのですね。
太田:はい。当社は「テクノロジーで、対話の可能性を広げる仕組みを創る」ことをミッションに掲げ、プロダクト名から社名にした「クウゼン」という言葉にも、「世界に空前絶後の対話革命を起こし、世の中を驚かすような製品を」との思いを込めています。
日頃慣れ親しんだコミュニケーションに近い対話型のインターフェースは、年代やITへのリテラシーを問わず誰もが使いこなせる点で、圧倒的な利便性を備えています。もっとも同時に、エンドユーザーが利便性を享受する裏側では、機能の充実に比例してシステムの複雑化も進んでいきます。
企業が顧客接点などとして対話型コミュニケーションのチャネルを運用する際に、そうした裏側を、いかに管理しやすい仕組みにできるか。これはテクノロジー企業が挑戦するに値する、とても興味深いテーマだと考えています。
「着実な成長から実直な姿勢が見えた」(富田)
─ 今回の出資に至るいきさつや決断した理由について、富田社長からお聞かせください。
富田:CVCを立ち上げて1年余り、私たちは主にBtoBビジネスやDX支援に取り組むスタートアップにフォーカスして投資先候補を探し、今回が3例目の出資となりました。
CVCの担当者が毎月20社前後挙げる候補のうち、こちらの希望としっかり重なるのは3分の1程度。それでも月7~8社のペースで各社のトップに会っていることになります。いきおい、お一人ずつとお話しする機会は限られますが、お互い複数の相手方と交渉を同時並行している状況もあり、私以外のCVCのメンバーも交えた投資の意志決定は、たいてい1~2カ月での決断となります。
太田社長とは2022年12月に初めてお目にかかり、第一印象と、その後数カ月間の業績を追いかけた結果から、「実直に事業と向き合う、よき“商売人”」だと確信しました。それが今回、出資を決めた大きな理由です。
特に私が評価したかったのは、「事業計画を常に上回るペースで、着実に業績を拡大していた」という点です。往々にしてスタートアップ経営者は資金調達したいあまり、まず読み違えようがない翌月の見通しも強気に示してしまい、結果それに届かないことで出資側の信頼と期待を損ないがちです。少なくとも現在まで、クウゼンの数字にそうした傾向は全くなく、経営に対する太田社長の姿勢の表れだと思っています。
─ ご自身に対するそうした評価について、
太田社長はどう思われますか。
太田:“商売人”という表現に自分が合うかどうかは分析できていませんが(笑)、金融業界にいたためか、「自分たちのビジネスを支え、守り、対外的な評価をいただくには、確かな実績を数字で出すことが何より重要」という意識は持っています。
増収を狙うマーケティング施策などは、仕込んでから数字に表れるまで数カ月かかります。ただ、それを織り込んで見通しを立てれば、実績はそう大きくズレないと思います。また、現在クウゼンは社員・業務委託などを含め約60人の組織に育ち、私一人の動きを超えた規模のビジネスにチームで取り組んでいます。そうした中、ほぼ予測通りの実績を出せているのは、経営陣が議論を尽くし、現実的に立てた目標を一人一人に落とし込む仕組みが今のところうまく機能しているためで、チーム全員の協力に感謝しています。
富田:伺っていて「やっぱりな」という思いですね。結果さえ出ればといっても簡単には出ませんから、確かな数字の背後には、必ずしっかりした考えがある。さらに言うと、金融マンとして「数字の扱いに慣れていること」と、経営者として「自分事として数字に向き合うこと」は、また別の問題です。
私は「調子のいいときほど先を見越して頑張らなければ」と常々自戒しているのですが、太田社長も同じ考えの持ち主という気がします。
─ ご自身に対するそうした評価に
ついて、太田社長はどう思われますか。
太田:“商売人”という表現に自分が合うかどうかは分析できていませんが(笑)、金融業界にいたためか、「自分たちのビジネスを支え、守り、対外的な評価をいただくには、確かな実績を数字で出すことが何より重要」という意識は持っています。
増収を狙うマーケティング施策などは、仕込んでから数字に表れるまで数カ月かかります。ただ、それを織り込んで見通しを立てれば、実績はそう大きくズレないと思います。また、現在クウゼンは社員・業務委託などを含め約60人の組織に育ち、私一人の動きを超えた規模のビジネスにチームで取り組んでいます。そうした中、ほぼ予測通りの実績を出せているのは、経営陣が議論を尽くし、現実的に立てた目標を一人一人に落とし込む仕組みが今のところうまく機能しているためで、チーム全員の協力に感謝しています。
富田:伺っていて「やっぱりな」という思いですね。結果さえ出ればといっても簡単には出ませんから、確かな数字の背後には、必ずしっかりした考えがある。さらに言うと、金融マンとして「数字の扱いに慣れていること」と、経営者として「自分事として数字に向き合うこと」は、また別の問題です。
私は「調子のいいときほど先を見越して頑張らなければ」と常々自戒しているのですが、太田社長も同じ考えの持ち主という気がします。
「積み上げ型の事業で足下を固め、高い山に登る」(太田)
─ 今回クウゼンがINNOVATION HAYATE V Capitalによる出資などで資金調達した目的は「新規プロダクトの開発およびエンジニア等の採用と組織体制の強化」と発表されています。創業者として会社を成長させることに対する、お二人の考えを伺えますか。
太田:ミッションで示したとおり、私は「対話」と並んで「テクノロジー」が、自社の核になる要素と考えています。新しい実用的な技術をどんどん積極的に採り入れ、市場に喜ばれるプロダクトをつくり、しっかりスケールさせて、テクノロジーカンパニーとして勝っていく。それが自分たちの存在意義だと思っています。
私たちが手がけるSaaSは、中長期で使い続けていただけるユーザーを、あたかもミルフィーユのように幾重にも積み上げていくビジネスであり、売り切り型のソフトウエアなどと比べると、先行投資の回収に時間がかかるとされています。そうした中で今回、私たちの将来の成長を見込んで出資いただいたことにより、「次に目指す高い山」を設定できるようになりました。
それを私は、「上手くいっているやり方を壊してでも次に進むチャレンジ」と捉えています。当社の足下は幸い好調であるものの、これから次の目標・より大きな山を目指す以上は、積み上げてきた延長上にない挑戦を、絶えず繰り返していくつもりでいます。
富田:太田さんの会社は今まさに、組織拡大でよく言われる「30人の壁」「50人の壁」「100人の壁」のうち、「50人の壁」を越えたところです。一方で私自身も、創業した会社が現在300人ほどで、さらに1,000人規模を目指して達成した企業を視察するなど、まだまだチャレンジを続けています。
組織拡大の一般論、例えば「同じやり方を続けるうちは絶対壁を超えられない」「壁の前後で権限委譲の仕方が変わる」「委譲した相手の顔が見えない規模では、OBライン※ を共有するための仕組みが必要」といった経験則は、私も時々話題にしています。
ただ、ある会社が具体的に、“いま何を優先すべきか”という判断は、第三者の立場からは難しい。特に自社のことを最もよく知る創業経営者に対しては、どれほどの経営経験の持ち主であろうと、外からの目で有益なアドバイスをすることなどまず無理であるというのが、私の考えです。
個人的に長く参画している世界的な起業家組織のEO(Entrepreneurs Organization)には、年齢・企業規模・経営歴ともさまざまな創業経営者が集っていますが、そこでの「アドバイス禁止」というルールが、私は大好きなんです。同じ事業家として、お互い高みを目指すには、先輩後輩や売上の大小と関係なく、「それに似た状況で、自分はこうした」という経験をシェアすることが、何より大切だと思います。
※ 自社の価値観に基づいた判断における「あり・なし」の分かれ目のこと
太田:今回富田社長と知り合う前に、私もEOのイベントに参加したことがあり、「経験をシェアする」という文化には魅力を感じていました。
この分野の大先輩であることを初対面の後で知り、富田社長とはデューデリジェンス関連にとどまらず、経営者としてあるべき姿・精神といった実務の先の話もしてきました。「話が合う方だな」という印象、さらに「これから手探りで事業を進めていく中で、一つの心の支えが得られそう」という安心感を持てたのは、私自身にとって大きなことでした。
太田:今回富田社長と知り合う前に、私もEOのイベントに参加したことがあり、「経験をシェアする」という文化には魅力を感じていました。
この分野の大先輩であることを初対面の後で知り、富田社長とはデューデリジェンス関連にとどまらず、経営者としてあるべき姿・精神といった実務の先の話もしてきました。「話が合う方だな」という印象、さらに「これから手探りで事業を進めていく中で、一つの心の支えが得られそう」という安心感を持てたのは、私自身にとって大きなことでした。
技術の磨き込みで目指す「全ての企業のためのサービス」
─ 昨今話題の生成型AI「ChatGPT」をクウゼンのサービスにも採り入れる動きが進んでいるそうですが、今後AIが社会にもたらす影響と、それを踏まえたお二方の事業家としてのお考えについて、最後にお聞かせください。
太田:AIに限らず画期的な技術は、公開されたそのままの状態では大半の人が使いこなせません。そこで私は「実際に顧客に役立ち、喜んでもらえるポイントを探し当てては作り込む」という旅を、これからも地道に続けていくと思います。
クウゼンでは外部企業と共同でChatGPTを試用し、全容の把握を進めている一方、以前からあるルールベースの自然言語処理エンジンも引き続き利用しています。ChatGPTが生成する回答は、雑談などで自然なやり取りを実現している半面、正確性が求められる場合はそのまま使いづらいのが現状で、さらなる進化も見据えながら、当面は両者のハイブリッドで実装を進めていこうと考えています。
いずれにしても私たちはAIに関して、何か単体で差別化できる独自技術こそないものの、用途に合わせたチャットボットの作り込みには自信を持っています。クウゼンが得意とする「現実のニーズにマッチするまでパーソナライズを積み重ねたチャットボット」を作りきれる競合はほとんどなく、徹底的に磨き込んだ技術をもとに事業をスケールさせるという意味では、金属の表面加工などと同じ「ものづくり」の感覚で取り組んでいくつもりです。
富田:AI、とりわけLLM(大規模言語モデル)の進化については「来るべきものが来た」という感想です。
「検索エンジン経由でサイトにたどり着いたユーザーにIT製品の資料請求をしてもらう」という、私たちITトレンドのビジネスモデルは、もはやいつ消滅してもおかしくなく、だからこそ私はここ数年、新たな事業の柱を育てるポートフォリオ経営に力を入れています。とはいえ今後、進化したLLMによって「資料請求後、営業担当者とアポイントを取らなくても、AIとの会話でヒアリングや導入が進められる」時代がもし来たならば、クウゼンを使った対話型コミュニケーションでIT製品導入を支援する事業なども成立しそうです。
その成否はさておき、もっと現実的なことを言うと、「優れたテクノロジーを中小企業まで浸透させる難しさ」という、長年の課題があります。既にクウゼンのユーザーにはECなどの中小事業者も少なくないと聞きますが、誰もが使いこなせる、より良いプロダクトを提供し、規模を問わずあらゆる企業の成長を支えていけば、それが社会貢献になるのはもちろん、クウゼンにとってもIPOや、さらに先の飛躍につながるはずです。
太田:チャットボットの回答を作り込んだ結果、クウゼンでは業界別のひな形を横展開できるようにもなりました。多くのユーザーに喜んでいただけそうであれば、今後は機能の一部を切り出し、中小企業向けにパッケージ化することなども検討したいと思います。
富田:私たちのCVCには「純投資」という発想がありません。「世の中を何か良い方向に変え、生きた証を残そうとする起業家同士に敵も味方もない。出資にとどまらず、短期の協業も、長期的な協力もしたい」というのが私の本音で、そうした取り組みを継続させるための、いわば手段として、ビジネスに属するCVCという形を選んでいます。
太田社長に対しても、クウゼンを弊社のメディアやイベントで紹介するといった実務的な協力は、これから順次進めていきます。ただ突き詰めれば、代わりのいない創業経営者同士で本当に役立てることは、かなり限られるのも確かです。だからこそ、苦労や気付きをシェアしたい。もしそれで避けられる失敗があればしないで済ませ、私を踏み台にして大きくなってほしいと願っています。
太田:チャットボットの回答を作り込んだ結果、クウゼンでは業界別のひな形を横展開できるようにもなりました。多くのユーザーに喜んでいただけそうであれば、今後は機能の一部を切り出し、中小企業向けにパッケージ化することなども検討したいと思います。
富田:私たちのCVCには「純投資」という発想がありません。「世の中を何か良い方向に変え、生きた証を残そうとする起業家同士に敵も味方もない。出資にとどまらず、短期の協業も、長期的な協力もしたい」というのが私の本音で、そうした取り組みを継続させるための、いわば手段として、ビジネスに属するCVCという形を選んでいます。
太田社長に対しても、クウゼンを弊社のメディアやイベントで紹介するといった実務的な協力は、これから順次進めていきます。ただ突き詰めれば、代わりのいない創業経営者同士で本当に役立てることは、かなり限られるのも確かです。だからこそ、苦労や気付きをシェアしたい。もしそれで避けられる失敗があればしないで済ませ、私を踏み台にして大きくなってほしいと願っています。
─ 出資する側・される側でも、案外同じ風景を見ているのが分かった気がします。
今回は興味深いお話をありがとうございました。
(聞き手・文:相馬大輔 写真:小笠原慧)
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