資産運用コンサルティングの在り方に変革を。
CVC組成のイノベーション×初出資先MONO Investment
両社トップが明かす「提携を決めたわけ」

年々増加を続け、現在国内に数百あるとされるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)。
事業会社が既存事業とのシナジーなどを狙って社外の新興企業に出資する組織のことで、既に安定基盤を持つ企業と、
これからビジネスを確立する企業の補完関係で、新たな成長を生み出す仕組みとして期待されています。
このうち、IT製品比較サイト「ITトレンド」の運営事業などを展開する株式会社イノベーションは2022年4月、
CVC「INNOVATION HAYATE V Capital」を投資顧問会社となるハヤテインベストメントと共同で設立。
翌月に第1号案件として、資産運用コンサルティング業界に特化したCRM(顧客管理ツール)を
開発提供する株式会社MONO Investmentに出資しました。
さまざまな選択肢がある中で今回の提携を選んだいきさつや、決断の決め手、
またこれから共に歩む方向性について、出資をした・受けた双方のトップに聞きました。

 MEMBER

今回の出席者

中西 諒氏

株式会社MONO Investment 代表取締役
以下「中西」

大阪大学経済学部在学中にCFA(米国証券アナリスト協会)主催の企業分析コンテストアジア太平洋地区大会に日本代表として出場。卒業後、野村アセットマネジメントで債券・デリバティブのリスク分析システムの開発やマルチアセットの投資業務に、またBlackRock Japanで証券化資産のリスク分析、ポートフォリオ構築プロセスの効率化等のアドバイザリー業務に従事。20201月、株式会社 MONO Investmentを設立し、代表に就任。

佐々木 辰氏

株式会社MONO Investment 代表取締役
以下「佐々木」

大阪大学大学院経済学研究科修士課程に在学中、中西氏と共に日本代表としてCFAの大会に出場。修了後、みずほフィナンシャルグループで国内大企業の資金調達ならびにM&A等の事業支援に従事し、シンガポール駐在時はASEAN 非日系企業の産業調査業務に携わる。その後、ベンチャー企業での事業開発及び資金調達担当を経て、2020年1月に株式会社MONO Investmentを共同創業し、代表に就任。

富田 直人

株式会社イノベーション 代表取締役社長
以下「富田」

横浜国立大学工学部電気工学科を卒業後、リクルートで営業・マーケティング・広告サイトの立ち上げやマネジメントなどを担当。2000年に株式会社イノベーションを創業してB to Bマーケティング支援事業を展開。2016年に東証マザーズ(現グロース)に上場する。2022年4月、同社およびハヤテインベストメント株式会社の共同でCVCファンド「INNOVATION HAYATE V Capital」を設立し、起業時に掲げたビジョン「『働く』を変える」の実現に向けた関連分野のスタートアップ支援に注力している。

独自開発ツールで目指す「個人投資家にやさしい世界」

─ まず、今回出資先となったMONO Investmentのお二方から、
ご自身と会社についてご紹介ください。

佐々木:私は学生時代から経済学、特に金融分野が専門で、同じ大学だった中西と一緒に、証券アナリストの世界大会にも出場しました。大学院修了後はM&Aや資金調達といった企業向けのファイナンスに携わってきましたが、「私たちにできることで、いま最もニーズがある分野は何か」と考えた結果、金融の中でもリテール、つまり個人の資産運用に関わる分野を選んで起業しました。
2020年1月に設立したMONO Investmentは、現在社員が約20人。僕が財務などのビジネス部門を、中西がプロダクトの開発部門を統括しています。

中西:起業まで10年弱、私は内資と外資の資産運用会社で、まとまった資金の投資先に関する分析を手がけていました。その中で問題意識を抱くようになり、「個人投資家にやさしい世界」を実現したいという思いから会社を立ち上げました。
われわれが開発提供している「MONO Investment」は、資産運用コンサルティング業界に特化した、クラウド型のCRMツールです。案件管理や一定条件でのアラートといった「顧客管理」の機能はもとより、複数口座にわたる資産情報をまとめて1画面で表示する「見える化」や、金融工学の理論に基づいて運用商品の選定を支援する「資産運用サポート」の機能を併せ持つのが特徴で、国内唯一のプロダクトと自負しています。既に証券会社2社で導入いただき、さらに大型の商談も進んでいるところです。

─ 出資元であるイノベーションの代表である富田さんからも自己紹介をいただけますか。

富田:私はもともと、父が経営する電気工事の会社を継ぐつもりで理系の大学を卒業後、「修行のつもりで3年勤めて辞めてもいい」と言ってくれたリクルートに入社しました。採用担当に配属されて私のような理系学生を口説いているうちに「これは営業活動だな」と。そこから営業に目覚め、以後リクルートでは約10年、ずっと新規開拓と新事業の立ち上げを担当しました。
当時、同世代の起業家との付き合いもあり、会社勤めよりも起業家として道を開いていく世界に憧れるようになっていました。そこで、良い商品があるのに営業力不足で成長しきれないケースが多いのを知っていた、IT業界の法人営業を支援する会社として2000年にイノベーションを設立しました。
2016年に上場したタイミングでは、それまで主力だったテレマーケティング事業を売却し、現在は製品比較のオンラインメディアや、マーケティング支援のWebサービスなどを事業の柱にしています。

共通する問題意識が結んだ縁

─ 創業経営者である富田さんが後進のビジネスに投資するようになったのは、
何がきっかけだったのでしょうか。

富田:若い起業家が好きなこともありますが、起業から20年を迎え「若い人を本気で応援する立場になった」と感じたのがきっかけです。
私自身、振り返れば成功ばかりではなく、「会社を大きく成長させるチャンスを何度か逃した」という反省もあります。そうした苦い経験、あるいは知人友人の起業家が持つナレッジを、これから大きくなる会社に早い段階から届けることで、世の中を変えていくのに少しでも貢献したいと考えました。
最初に2019年、証券会社勤務からIFA(独立系のファイナンシャルアドバイザー)として起業を考えていた馬場(勝寛・株式会社Innovation IFA Consulting社長)に「うちを踏み台にして業界を変えてほしい」と伝え、グループ入りしてもらいました。
このときは自社の一部門として事業を任せるグループ経営の形を採りましたが、会社のリソースを活用してより多くの起業家を応援し、やりたいことを存分にやってもらう仕組みとしてはCVCも魅力的に感じ、今年「INNOVATION HAYATE V Capital」を立ち上げました。

─ MONO Investmentのお二人は、
どういった接点で富田さんと知り合ったのですか。

佐々木:つてをたどって出会った馬場さんとのつながりからです。僕たちはプロダクト開発の技術に自信があった半面、想定ユーザーである証券営業の経験者はいなかったので、現場の事情をIFAの方からヒアリングできればと、コロナ禍前の2020年2月にオフィスを訪問したのがきっかけでした。

中西:実際の業務を拝見し、また試作したCRMの第1号ユーザーにもなっていただく中で、起業した馬場さんに対する富田社長のスタンスが、とてもよく伝わってきました。

富田:MONO Investmentとイノベーションは今回、CVCを通じた「資本業務提携」を結びましたが、馬場の会社の場合は、私たちの出資比率がもっと多い「子会社」です。
それでも「ビジネスとして利益を出してほしい」という以外、こちらの都合で利用するようなことはありません。やりたいことを、存分にやってほしい。ただ逆に、こちらが配慮して事業展開を控えることもなく、MONO Investmentは競合のIFAにも役立つツールとして提案しています。IFAがこれから伸びる成長市場であることを踏まえ、そういう関係でやっています。

─ MONO Investmentのお二人は、
どういった接点で富田さんと知り合ったのですか。

中西:投資信託などの金融商品が緻密な分析に基づいて設計されているのに対し、そうした商品を最終的に購入いただく個人投資家の方々への提案は従来、かなりアバウトなもので、投資対象を検討する分析サービスの提供も不十分でした。
そのギャップがあまりにも大きすぎるというのが私の問題意識で、われわれの知見を生かしたツールの提供を通じ、個人投資家の方々によりよい運用提案ができる環境をつくりたいと考えています。

─ 期せずして、お互いの姿勢を間近に見て理解する機会があったのですね。
ちなみに、問題意識や課題解決をビジネスにつなげるというお話が何度かありましたが、
具体的にどういった問題の解決を目指しているのでしょうか。

中西:投資信託などの金融商品が緻密な分析に基づいて設計されているのに対し、そうした商品を最終的に購入いただく個人投資家の方々への提案は従来、かなりアバウトなもので、投資対象を検討する分析サービスの提供も不十分でした。
そのギャップがあまりにも大きすぎるというのが私の問題意識で、われわれの知見を生かしたツールの提供を通じ、個人投資家の方々によりよい運用提案ができる環境をつくりたいと考えています。

 

佐々木:「貯蓄から投資へ」と言われて久しい日本で、それを定着させるために僕らができることは、「こういう金融商品を買ったらいいですよ」というお勧めを個人の投資家さんに直接するか、あるいは投資家と接するアドバイザーの方々がよりよい提案をするために業務効率化などをサポートするかの、大きく2つだと考えています。
前者については「投資のコンシェルジュ」というWebメディアを起点に中長期的に取り組むつもりですが、直近ではまず後者、特に今後主流になると思われる独立系アドバイザーの方々へのCRMの提案を重点的に進めていて、現在国内IFA業界の約2割でご利用いただくようになっています。

富田:「証券会社の営業方針に納得できずネット証券へ切り替えた」という個人的な体験もあって、私は組織の事情に左右されない独立系アドバイザーのIFAが今後伸びることに期待し、応援しようと考えています。実はMONO Investmentと出会う前、「イノベーションでIFA向けのCRMをつくって事業化できないか」と、かなり真剣に検討していた時期もありました。

提携の決め手は「勝ち筋」と「起業家マインド」

ベンチャー投資をする側・受ける側ともさまざまな事業展開の選択肢がある中、
今回CVCを介した提携を決めた理由は何か、それぞれの立場からお聞かせください。

富田:私がやりたかったけれども事業化を断念したIFA向けのCRMを、彼らMONO Investmentがやっていて、しかもわれわれだけでは絶対真似できない“勝ち筋”も持っていたということですね。
具体的に言うと、彼らは将来的に伸びるIFAの市場だけでなく、いまリテールの主流である証券会社などの金融機関にも実績があります。しかも、顧客の状況を管理するだけのツールにとどまらず、その状況をもとに最適な金融商品を勧めたり、必要に応じて新たな商品を設計したりといった、追加サービスを用意して事業化できる力も持っています。
当社の株主から預かっている資金を彼らに投じるにあたり、そうしたビジネスとしての勝算がしっかりあるので、何かわれわれの意向に合わせたりしなくても、自由な立場で存分にやってもらいさえすれば市場が広がり、結果として必ず数字がついてくるはずだと。だから理想的な形で応援できると思ったのが決め手です。

中西:今回は出会いの経緯もあり、富田社長のスタンスをよく理解し、起業家の大先輩として直接ご指導いただける関係になれたことが提携につながったと思います。
今回調達した資金も使い、今後われわれが「みんなでプロダクトをつくる集団」から「会社組織」に拡大していく中では、きっと経営者としての悩みがいろいろ出てくると思います。お金の関係はありつつ、それとはまた別に率直な相談ができる関係を持てたのは、とても心強いと感じます。

 

佐々木:僕もやはり、起業家の立場になって応援してくれるトップと直接やりとりできたのが、今回提携に至った最大の理由だと思います。
僕たちはやりたいことがあって起業しているので、出資いただく場合も、「出していただいたから、こういうことをします」という取り組みではなく、「われわれが成長した中から、これだけお返しします」というリターンをお約束する関係でありたいと考えていました。
ただ、ベンチャーキャピタルもCVCも、担当者の多くは組織の一員です。特にCVCには自社の研究開発の一環という性格が強いところもあり、ベンチャーの技術を自社に取り込むことに関心がある、あるいは担当者のKPIが共同事業の実施件数になっていて、とにかく一緒に何かしなければならないといった例もみられます。

ですから、立ち上げた会社を自分たちのやり方で成長させたい起業家にとって、それが可能な出資者かどうかはよく考えなければならないところです。今回、富田社長と直接お話ししながら進められたのは幸いでした。

佐々木:僕もやはり、起業家の立場になって応援してくれるトップと直接やりとりできたのが、今回提携に至った最大の理由だと思います。
僕たちはやりたいことがあって起業しているので、出資いただく場合も、「出していただいたから、こういうことをします」という取り組みではなく、「われわれが成長した中から、これだけお返しします」というリターンをお約束する関係でありたいと考えていました。
ただ、ベンチャーキャピタルもCVCも、担当者の多くは組織の一員です。特にCVCには自社の研究開発の一環という性格が強いところもあり、ベンチャーの技術を自社に取り込むことに関心がある、あるいは担当者のKPIが共同事業の実施件数になっていて、とにかく一緒に何かしなければならないといった例もみられます。

ですから、立ち上げた会社を自分たちのやり方で成長させたい起業家にとって、それが可能な出資者かどうかはよく考えなければならないところです。今回、富田社長と直接お話ししながら進められたのは幸いでした。

理解ある同志の集う場から、自由な挑戦を

─ 幸運な巡り合わせを機に、どう事業を伸ばしていくか、
MONO Investmentのお二方から、今後の展望についてもうかがえますか。

佐々木:個人の資産運用に関するコンサルティングは、今後数年で金融機関出身者が独立してIFAとなるケースが加速するとともに、それを受けた既存の金融機関も、より顧客本位の姿勢に間違いなく変わると考えています。
大手金融にはシステム開発部門があるので、いずれは顧客管理の高度なソリューションを自前でつくることもできるでしょう。ですから最終的にリテール全部がうちのユーザーとはならないにしても、いまこの段階からわれわれが問題提起し、業界全体がよりよいサービスを追求する流れをつくることで、MONO Investmentがこの分野のリーディングカンパニーと認められるようになれたらと考えています。

中西:既存の金融機関を通じた投資の経験がない方々もまだまだ多く、そうした方々が新たに投資を始めるときはWebでご自身が情報収集するでしょうし、分からないことがあれば専門家に聞きたくなると思います。
そこでニーズが高まるIFAのマーケットに、よりよい提案ができるツールを提供すると同時に、今後は個人で気軽に使える資産管理ツールもWeb上に公開し、そこから自分に合ったアドバイザーを探せるマッチング機能も強化していきたいと考えています。

─ 第1号にふさわしい案件に続くCVCの方向性についても、
富田さんからお聞かせください。

富田:起業家として私自身がされて嫌なことはしない、中西さんや佐々木さんのような若い起業家に、とにかく自由にやってもらえるようにと始めたCVCです。
同じ起業家として、起業家マインドを何よりも大切にしているところが、CVCの中では特徴的なのかもしれません。パートナーとしてお二人に選んでもらったことを光栄に思っています。
お金だけじゃなく、私の経験、人脈、何でも使って、すごいスピードでやりたいことを成し遂げてほしい。理解ある同志が集まる、起業家にとって心地よい場になれたらと願っています。

─ お三方の率直な思いがうかがえる貴重な機会だったと思います。
今回はお忙しいところ、ありがとうございました。

(聞き手・文:相馬大輔 写真:小笠原慧)

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